あなたは、石鯛の実物を見たことがありますか?
いや、実物どころか、切り身や刺し身だって、多分見たことが
ないでしょう。
そうなんです、この”磯の王者”と釣り人から崇められている
実物は、磯釣り師の間でも、もっとも根性とお金がかかる
狙い魚で、なにしろ、釣れる場所は荒波のしぶき散る荒磯で、
餌は高価なサザエの身なんですから……
そして、ヤツらは、なんとアワビやサザエや伊勢海老やウニや蟹を
常食しているので、その身は、えも言われぬ美味!らしい
「らしい」と書いたのは、そう、私だって石鯛の実物をおろすのは
初めてだし、食するのも(たぶん)初めて
そ、それが……うちの前の家の船釣師の老人が
(めったに無いことだけど)向こうから声をかけてきて
「石鯛、食べます? 食べるんだったら、あげるけど」
と、にわかに信じられない提案を。
「え、えーっ、石鯛ですか? もちろん頂きます」
「でも、釣って、クーラーに入れたまんまなんだけど」
「えっ 最高じゃないですか。わたし、おろせますから」
「じゃ、ちょっと待てて」……
と、船釣師専用の大型クーラーを重そうに運んできて
中を開けたら……中には、まだ口に針がかかったままの
石鯛が2尾に、大きなカサゴが1尾。
「よかったら、コレぜんぶ持ってって」
「てーって、て、こんな高級魚3尾も!!いいんですか~」
……てことで、もらってきたけど。
「アナタ、こんな大きくて皮が硬そうな魚、ちゃんとおろせるの?」
と、奥さんは半信半疑。
「てやんでー、このぐらいおろせなくちゃ、磯釣り師が泣くぜぃ」
と(内心で)タンカを切ったのはいいけれど……
……はて、いつもの小出刃じゃ、多分歯がたたないし
かといって、名刀”正宗”の相出刃でやって、もしも、刃こぼれ
なんかしたら…泣くに泣けない。
そうだ、奥さんが、嫁入りした時(古い表現)に持参した
無銘の相出刃があったハズ、あれを使おう。
ということで、いよいよ作業に入る前に、
(奥さんにはナイショで)
復習として「料理人が教える包丁の使い方と魚の捌き方」という
専門書をパラパラと見てみたら、なんと真鯛、チダイ、黒鯛は
でてるけど…やはり、石鯛のおろし方は出ていない。
(う~~ん、こういうのを武者震いが出てくるっていうんだ)
と内心ではアセりながらも、
大きなエプロンをして、いざ!
と、台所に立ったとたんに、変なことを思い出した。
何年か前の新聞で、「石鯛の毒で、重篤な病に…」という記事が
出ていたことを……
で、すぐにインターネットで検索してみると
「大型のイシダイや老成のクチグロはシガテラ毒を持っていることがある
ので食用にする時は注意しなければなりません。
シガテラ毒の中毒にかかた場合、吐き気、下痢、腹痛が半日~約1週間
続くほか、不整脈や血圧低下、めまい、頭痛、感覚異常などの症状が
出ます。シガテラ毒の食中毒は効果的な治療法がまだありません。
神経系にダメージを与えるので、完全に回復するまでに半年~1年かかる
場合もあります」
だ、そうなんです。
(変に勘ぐれば、それで、わたしにくれた……)ということじゃ、
ないんだろうとは思いましたが、もうここまで乗り始めたんだから、
ビビっておりることはしたくない……ので、再びいざ!!
石鯛おろしの、何が大変かというと、まずこのウロコひき。
こりゃ~、女こどもには、出来ないというか、
やらせたら、途中で放棄されてしまいそう
はい、こちら2魚のうち大きいほうで、まな板からはみ出る46cm
まさに、食べごろサイズです。
とにかく、今までおろした魚の中では一番皮が固くて鎧のよう
で、もっとも刃先の神経を使ったのが、ここまで
内蔵をちょっとでも傷つけたら、シガテラ毒にやられてしまうため
内蔵を破らないようにして……やったね、取り出し成功!
しっかりと腹の中を水洗いしてから、まず上身ごろを切り分けますが…
久しぶりの出刃使いなので、プロからみたら、ちょっと失敗気味
カマやハラミも、もちろん捨てずにとっておきます
ひえ~、45分もかかって、なんとか石鯛の3枚おろし成功!
昔だったら(某有名洋食店の厨房で魚をおろしていたキャリアあり)
ほんの10分もあれば、ねぇ~
アラなども、潮汁のいいダシがでそうなので、もちろんとっておきます
さて、ほんとーは刺し身でいただくのが一番なんですが、
まあここは……自宅の庭で「天日干しの干物」にしてみました
はい、これが完成品。
さて、「石鯛の干物」なんて、そんじょそこらで食べられるもんじゃ
ないですが、お味のほうは………
ほっほっほ~ 磯の王者の、なんという上品な滋味&美味!
(ところが、うちの奥さんが翌日、気功の先生に
地磯の採れたて生ワカメと交換に、半身をあげちゃったんで)ウッソー…
さらに、後日談。
お礼に、横浜本牧通りで、評判の杉山牛肉店の自家製焼豚を
「まあ、魚は大きいのが2500円、小さいほうが1500円、カサゴが1000円と
して、お礼は半額ぐらいでいいんじゃない」と、
それなりの量を調達して、老船釣師に届けたんですが
試しに、インターネットで調べたら、
なんと、あの大きい方 一尾6000円以上の値段が……